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入局・研修について

留学体験記

西村 崇 先生
2009年4月―
アメリカ合衆国 アトランタ Emory University Hospital

はじめに

留学体験記を書かせて頂けることになりましたが、既に若手心臓外科医の会に実際の研修の内容などを書いていますので、下記URLも参照してください。

http://jaycs.umin.jp/clinical/clinical_tneuh.htm

ここでは内容が重複しないように、若手の先生から良く聞かれる4つの点(留学のきっかけ、必要な英語力、厳しい留学生活、研修施設の選択)について書くことにしました。

留学のきっかけ

私が留学をすることに至ったのは、京都大学の心臓血管外科への入局から始まりました。

学生時代から漠然と海外での臨床経験に憧れをもって、USMLEの教科書であるfirst aidは大学3年くらいのときに買ったように思います。目標もはっきりしないまま少し勉強したものの結局本気に勉強することはなく教科書にもほとんど手をつけていませんでした。

東京医科歯科大学6年時、自分の進路を考えていた際に大学の友人に誘われて国立循環器病センターへ見学に行きました。たしか、3,4日宿泊しました。その時、京都大学の心臓血管外科も見学に行きました。当時、米田先生が非常に積極的に研修体制の確立に取り組んでおり、私が知る限り唯一具体的によさそうな研修プログラムが組まれている大学の医局でした。京都大学での数日間の見学時、幸いにも同医局で研修医1年目であった甲斐先生(現在Weschester Medical CenterにてAttending)と知り合うことが出来ました。甲斐先生は学生時代にUSMLE STEP1を取得されており、私に大学6年は部活も終わってやることがなくて暇だから、STEP1を勉強して取ったほうがよいと勧めてくれました。「国家試験は勉強しなくても大丈夫だから」と言われ、その言葉を信じてクラスメイトが国家試験勉強をする隣でSTEP1の勉強を始めました。国家試験受験後、クラスメイト達が卒業旅行へ旅立つ中、私はSTEP1の勉強にラストスパートをかけて1ヶ月後に受験しなんとか合格しました。自分にとってはこのSTEP1が最大の難関でした。STEP2CKは、研修医1年目の麻酔科ローテーション3ヶ月間で勉強し取得しました。麻酔中に教科書を読んで、麻酔科教授に睨まれたことを覚えています。卒後2年目から県立尼崎病院、卒後4年目から新葛飾病院(現、イムス葛飾ハートセンター)に勤務となり臨床が忙しくUSMLEの勉強からは遠ざかっていましたが、2007年に同期の板垣先生(現在 Mount Sinai Medical CneterにてClinical Fellow)が、続いて2008年から甲斐先生がアメリカへ臨床留学されました。当時卒後5年目であった私は勤務先での仕事内容に徐々に満足できなくなっており、次のステップを踏みたいと考えていました。二人とのメールのやり取りを通して、再び渡米の意思が強くなり、STEP2CSの受験を決意しました。STEP2CSは模擬患者を相手にしたskillのテストであるため、アメリカ本土でしか受験が出来ません。そのため、往復の飛行機代、ホテル代、受験料、それに多くの場合はカプランの5日間講座を受けるためその費用も必要になります(ちなみに授業料は5日間で30万円くらい)。それなりの決意が必要になりますが、逆に言うと決意があればこのSTEPで困ることはそれほどありません。こうして、卒後6年目に念願のECFMG Certificationを手に入れることが出来ました。 2009年4月よりEmory Univeristy ( Altanta, GA)にて3年間の研修を始めることになりました。現在アメリカでは心臓外科は人気がないため定数割れしており、資格さえあれば比較的容易に海外からもフェローとしてプログラムに入ることが出来ます。そういう意味では今はチャンスで、実際に日本でも若手の先生が渡米のために資格をとっているケースが年々増えています。渡米に際しては、坂田教授、葛飾の吉田先生、神戸中央市民病院の小山先生、県立尼崎病院藤原先生をはじめ、多くの先生方の助けを頂きました。

研修開始後は困難の連続でした。具体的な研修内容などに関しては、上記したように若手心臓外科医の会ホームページに体験記を書きましたので参考にしてください。

必要な英語力

海外留学を希望する先生からよく「英語はどのくらい必要ですか?」と聞かれます。基本的にはUSMLEに合格するレベルの英語があれば十分かと思います。私も普通の日本人で英会話が特別に得意ではありませんでしたので、渡米後から半年くらいは非常に苦労しました。しかし、英語が得意であったと言われる先生方も結局渡米直後は同じように苦労されているようなので、誰でも渡米直後は非常につらい思いをするであろうという覚悟をしていったほうがよいでしょう。大抵の日本人は渡米後暫くの間、程度の差はあるものの鬱状態になります。英語の問題、思ったより手術がすぐにさせてもらえない、友達がいない、家族がいない、薬の名前や量が違うので適応できない、運転免許証がなかなか取れないなどなど、理由は様々です。しかしながら、そのような環境でひとつひとつ問題を自分で解決して、新しい環境で適応してやっていくということの中に、徐々に喜びを見出せるようになるのではないでしょうか。実際、適応できずにEmoryから離脱されてしまった外国人フェローは数人(正規レジデントも3年の間に2人離脱しました)いましたが、それは日本と違ってやはり厳しいところです。

厳しい留学生活

大抵の留学体験記にはあまり研修の厳しい面が書かれていないですが、アメリカでの臨床研修はかなり厳しいです。私は今のところエモリー大学しか知りませんが、ここはアメリカの中でも最も厳しいプログラムのひとつだと思います。体力面、精神面、経済面で厳しいので簡単に紹介します。

体力面に関して、まず朝が早い。5時起床。回診は日によりますが、基本的に6時くらいからICU患者を手分けして診はじめ、6時半くらいからチーフとラウンド。その日の指示を全て入力してICUチームに話した後、7半から手術開始となります。当直は、病院や時期によるものの大抵月10日程度で、ICU12床、病棟25床程度をカバーします。当直中は真夜中も含めて30分毎くらいにベルが鳴り、その度に電話をかけて必要なら患者を見に行きます。ちなみに最高記録は、午後5時から翌朝7時までに60回ベルが鳴りました。救急外来からの電話番号がベルに入ると落ちこみますが、救急外来へ行って患者をみてスタッフにプランを電話報告、入院、緊急手術準備、処置など自分ひとりで全て行う必要があります。また、エモリーだけかもしれませんが、夜中1時から5時の間にも、安定している患者が他院から搬送されて入院になることが多々あります。一番ひどいときは、夜間5人入院がありました。昼間はPAが対応してくれますが、夜間はPAがいないので、入院があると入院時指示、検査一式、送られてきた画像のチェック、プランを考えて担当のスタッフに電話で報告、手術の説明と同意書をとるまで全部自分ひとりでやる必要があります。患者一人で1時間前後かかるので、3人くらい入院がいるとその夜は寝れません。また、当直の後、正規レジデントは帰宅の義務がありますが、外国人にはそれが適応されないため大抵夕方まで手術で残る必要があります。家族にしてみたら土日も含めて3日に1日は当直で帰宅せず、当直後日も帰ってくるのは夜で疲れて寝るだけ、3日に一度普通に夕方帰って来て少し一緒に時間がもてるという生活です。私は家のことを手伝うことはほとんどできず、妻は一人で子育てと家事と非常に大変だったことと思います。正規レジデントはプログラムの規定があり、当直後は午前10時までに帰宅、土日は最低月4日は休みをもらえることになっていますが、外国人はそれが適応されません。一番大変なときは、休みは月に1日のみで、当直は二人で回したという時期がありました。その時は土日一人当直、つまり土曜日の朝6時から月曜日の手術が終わる夜まで(およそ60時間)ずっと病院に缶詰という状態が隔週でありました。

経済面も留学を考える方にとっては非常に気になるところかと思いますが、エモリーでは55000ドルから60000ドルくらいでした。アトランタは物価が安いので、生活するには十分な額ですが、仕事量を考えると全く割りに合いません。また、日本に帰国することや、車など初期投資が必要なので、渡米前に貯金はある程度必要です。ちなみに、当直代の相場は1000ドルくらいという事ですが、フェローはいくら当直をしても当直代はもらえませんでした。 私にとっては一番精神面が厳しかったと言えます。上記のような体力的、経済的に厳しい生活をしている一番の理由、私たち外国人がわざわざアメリカに来た一番の理由は手術を学びたいからです。手術室の外では同じように厳しい生活をしているにもかかわらず、手術の選択権は正規レジデントに優先されるため、珍しい症例や難しい症例を経験する機会に恵まれず、また手術が少ないときは1年目であっても正規レジデントが優先的に手術に入るという伝統があり、非常に悔しい思いをしました。

研修施設の選択

エモリーでの生活は厳しいものでしたが、私はその中に十分な意義を認めることが出来ました。研修先を選ぶ上で考えたい点は、施設のプログラム、正規レジデントの人数、給料、当直、場所など色々とあります。しかし実際に研修を始めてみなければ分からない事も多いですし、大抵の場合日本から直接渡米する際に研修病院の選択肢はそれほど多くありません。大事なことは一歩目を踏み出すことであり、まずは渡米し、最初の研修をしっかり頑張ること。そうすれば、その先に道が開けてくるはずです。研修プログラムの評判は日本人のネットワークを通じてある程度入手することが出来ます。

海外生活の勧め

アメリカでの生活はすばらしいです。留学の厳しい面を色々と書きましたが、僕は渡米したことに対して100%正解であったと言えます。日本での生活に比べて、精神的、肉体的、経済的に苦しくなり、色々と考えられないような困難を伴いますが、家族の絆は強まり違う価値観に触れることが出来ます。日本の文化は色々と変わっているし、日本国は色々と非常に深刻な問題を抱えています。そのようなことを意識するようになったのは、海外からの視点を持つことが出来たからだと思います。臨床留学に限らず研究留学であっても、アメリカに限らず海外で生活することは、自分に新たな視点を与えてくれて非常に有意義な時間になることと思います。

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