English
ページトップへ戻る

入局・研修について

留学体験記

江崎 二郎 先生
2011年4月―
アメリカ合衆国 アトランタ Emory University Hospital

1.はじめに

2011年1月よりアメリカ南部のアトランタにあるEmory universityにおいてclinical fellowをさせていただいております。アトランタは、ある程度の大都市でありながら緑の多い所で、また気候的には北部のような厳しい寒さもなく日本に近いと思います(夏は暑いです)。

2.留学するまで

私は、学生時代にアメリカの臨床教育は素晴らしいという話を聞き、アメリカの医療に興味を持ち、英語やUSMLEの勉強をしておりました。学生時代にUSMLE Step1とStep2 (今でいうStep2 CK)に合格しました。その後、心臓血管外科に入局し、大学病院で研修後、倉敷中央病院と熊本中央病院で研修いたしました。研修病院および上司に大変恵まれ、自分が少しずつステップアップしているという実感があり、多少の執刀もさせていただいていたため、研修にはある程度満足し、また忙しいこともありUSMLEの続きの勉強ができておりませんでした。大学院入学後、その先の道がなかなか見えてこず、また執刀数としても不十分であると感じ、USMLEの勉強を再開し、ECFMG certificateを得ました。試験に受かれば研修先がすぐ決まると思っていましたが、研修先が決まるまでに少し時間がかかりました。40施設ほどにCVとpersonal statementを出し、良い返事をいただいた施設の中から外国人でもある程度執刀できるという話を聞いていた施設を選び、3施設で面接、1施設は電話面接を行い、2施設からOKの返事をもらいました。その中からEmory Universityに留学することを決めました。

3.研修

Emory Universityの正規レジデントの研修は大変すばらしく、3年間でかなりの症例が執刀できます。特に3年目の執刀経験は素晴らしいです。自分が10年程度の間にやってきたことよりはるかに多くの症例を3年間で経験し、その後attendingのポジションを得て、自分で執刀する立場になっていきます。アメリカにおいては、attendingとresident/fellowの間には、仕事、責任、待遇、勤務時間、給料などに大きな差があります。1年目の何もわかっていない状態から、3年間で一気に自分たちを追い抜いていき、上の立場になっていきます。

外国人フェローは、Emory University Hospital, Emory University Hospital Midtown, Grady Hospitalをローテートします。Emory University Hospitalでは移植やLVADを含めて重症例中心の約1000例弱の開心術を行っており, Emory University Hospital MidtownではCABGや弁膜症などの一般的な開心術を約1000例弱行っており、Grady Hospitalでは無保険者やHIV患者を含め約100例弱の開心術を行っております。Grady Hospitalにおいてはほとんどの症例を執刀できますが、Emory University HospitalやEmory University Hospital Midtownにおいて外国人フェローがどの程度執刀できるかは、チーフレジデントが症例の割り当てを行うためチーフレジデントの裁量によるのと、attendingとの信頼関係によると思われます。術中の助手および術後管理をしっかり行うことで、attendingからの信頼が得られ、少しずつ執刀症例が増えていきます。私は、1年5か月の時点で、執刀症例は約70例(半数がCABG, 30%が弁、10%が大動脈)と満足な症例数ではありませんが、Ground roundでpresentationをする機会を得たり、徐々にattendingからの信頼を得ているのではないかと自分では思っているので、今後に期待しております。第一助手は約130例です。

日々の生活は、5時半から6時ごろからICU患者を診察し、6時半からのチーフレジデントとの回診に備えます。7時半から手術開始、手術終了後にICUの患者を再確認することになります。病棟の患者はPAまたはNPが回診します。当直は月8-10回と多く、また当直明けでも夕方まで仕事があることも多々あり、勤務時間は比較的長いです。当直時は、胸部外科の患者も含めて30-50人程度をカバーし、入院や救急などかなり大変です。週末は、だいたい月二回の週末の休みが取れることが多いですが月1回しか週末の休みがとれないこともあります。

研修開始当初は、英語でのコミュニケーションの問題、術後管理が大きく異なることや、薬の発音・使用法が異なることなどで、非常に大変でしたが、現在はかなり慣れてきました。英語のコミュニケーション能力に関しては、手術の説明を含めて何とかこなしておりますが、まだまだ不十分です。

また、アメリカにおいてはevidenceが非常に重要であり、術式や術後管理に関して日本でこんなことをやっていい結果が得られたというようなevidenceのない話をしても全く相手にされず、いつのどのJournalのどのpaperがあるから~というような話が必要です。ICUの管理は、cardiothoracic surgery(CTS) teamとCritical care medicine (CCM) teamとの合同で行っておりますが、CCM attendingとdiscussionをすると術後管理に関してevidenceに基づいた新たな発見もあります。

4.日本とアメリカの心臓外科を比較して

日本の心臓外科のレベルは高いと思いますし、保険制度など日本には良いところもたくさんありますが、教育制度や施設の集約などについては、アメリカやアジアの他の国と比べても日本は後進国と言わざるをいえません。アメリカの医療で良いと思った点をまとめてみます。

(1).Physician assistant(PA), nurse practitioner(NP)
アメリカでは、PA, NPが大変活躍しております。手術の第二助手や静脈採取は、PA, NPがしておりますし、ICUや病棟の患者管理にも大変活躍しております。若手医師の仕事の軽減、ひいては若手医師の必要数の軽減にかなり貢献していると思われます。日本においても特定看護師制度ができるようでありますが、心臓外科の手術助手や術後管理にかかわれるような看護師やPAを教育し、多くの施設で活躍できるようになるとよいかと思っております。

(2).教育プログラム アメリカにおいては、5年間のgeneral surgery residencyを終了後、2-3年のcardiothoracic surgery residencyを行うことになっており、2年のプログラムでは250例以上、3年のプログラムでは375例以上を執刀できるようなプログラムになっており、教育が大事な位置づけとなっております。病院側は、優秀なレジデントを集めるため、魅力的な教育プログラムを提供しようとし、またレジデント側は、魅力的な教育プログラムで研修できるようにがんばって働くというように、教育側および教育される側が双方に努力している印象です。また、教育プログラムは、公的な機関からレジデントの教育内容・勤務時間などのチェックを受けているようで、問題があるとプログラムの閉鎖を余議なくされ、労働力でもあるレジデントがとれなくなるというシステムになっているようです。また、期間ごとに、レジデント・フェローがattendingの評価をする機会があります。日本では、症例数の違いがあるため、アメリカと同じような教育システムは無理ですが、病院側・ベテラン医師の教育に対する意識改革と、それをすすめるようなシステム作り、また教育内容を評価するシステムが必要かと思います。若手医師側の努力が必要であることや、医療の安全・医療の質が大事であることは、言うまでもありません。医局制度の中では難しい点もあるとは思いますが、自由競争的な要素も取り入れ、若手医師側も病院を選択できるようにすると、優秀な医師を集められるように病院側も努力するようになるのではないかと思います。教育の質を改善していくためにも、施設の集約化、症例の集約化がやはり必要と思われます。

(3).執刀医としてのポジション 以前はアメリカにおいても、レジデント終了後にattendingのポジションがないようなことがあったようですが、現在は、residency終了後、多くの場合attendingのポジションが得られ、自分の責任のもとで執刀できているようです。それは、症例数に見合うだけのレジデントのポジションの数を決めているからだと思われます。日本においては、労働力として若手医師をたくさん必要としますが、症例数の関係でなかなか執刀医になれず、卒後10年以上たっても、先が見えてこない状況です。日本全体の症例数から必要な専門医数、教育すべき若手医師の数を設定し、労働力としてたりない分はPA, NPの力をかりるという変革が必要と思います。

(4).勤務時間 アメリカにおいても外科が不人気であった時期があるようですが、レジデントの勤務時間に制限ができてから人気が回復し、現在general surgery residencyは大変人気のようです。日本においても勤務時間の制限が必要なのかもしれません。

日本の心臓外科の状況が少しずつでも改善されていくことを望みます。

5.最後に

日本には留学をされておられなくても素晴らしい外科医はたくさんおられ、海外留学は必ずしも必要とは思いませんが、執刀経験を含め貴重な経験ができることは間違いありません。理想を言えば、日本で数年間程度の臨床を経験後に渡米し、general surgery residencyから始めて、CTS residencyに入るのが、確実に良い教育が受けられて、多数の執刀経験をえることができ、またその後のattendingのポジションもほぼ確実にあり、最終的に執刀できる立場になれる近道かもしれません。外国人フェローとして留学する場合、施設により研修内容が大きく変わってきますので、十分情報収集をし、施設選択することをお勧めします。

このような貴重な留学をさせていただいているのは、坂田教授をはじめとし同門会の先生方のおかげであり、厚く御礼申し上げます。また、留学には家族の協力が大変重要で、慣れない海外生活から、子供の現地校の教育、日本の教育にと奮闘している妻や、英語が全く話せない状況でアメリカの小学校に放りこまれながらも頑張っている子供たちには大変感謝しております。

ページトップへ戻る

Contact

京都大学 心臓血管外科(京都大学医学部附属病院心臓血管外科病棟)
〒606-8507 京都市左京区聖護院川原町54
Tel : 075-751-3788(病棟)075-751-3784(医局) Fax : 075-751-4960
Mail : cvs@kuhp.kyoto-u.ac.jp
Copyright © Department of Cardiovascular Surgery
Graduate School of Medicine, Kyoto University All Rights Reserved.