English
ページトップへ戻る

入局・研修について

留学体験記

南方 謙二 先生

2010年8月―2011年3月
アメリカ合衆国 ペンシルバニア州ピッツバーグ University of Pittsburgh Medical Center

1.都市・施設の特徴

ピッツバーグ市は米国東部ペンシルバニア州西部に位置し、かつては鉄鋼で大きく栄えた産業都市であったが(世界最大の鉄鋼メーカーUS Stealの本社がある)、1980年代に大きく衰退した。しかしながら近年IT、医療、保険・金融などを中心に産業構造を転換し、ハイテク都市へと再生を果たした。特に学術面では、ピッツバーグ大学、カーネギーメロン大学など全米を代表する教育研究機関が学術都市を形成している。ピッツバーグ大学医学部は肝臓移植の権威、Dr. Thomas E. Starzlにより、世界有数の移植施設に発展したことでも知られ、移植医療に対する取り組みが全米で最も盛んな医療施設の一つとして知られている。また、臨床・研究を問わず、日本人が多数留学してきた施設でもある。

2.留学のきっかけ

私はこれまで米国2施設で臨床研修を行ってきた。卒後7年目の2000年4月から、米国オレゴン州ポートランドのProvidence St. Vincent Medical Centerで1年半のclinical fellowを行った後、2001年10月から2年間、ミネソタ州のMayo Clinicでclinical fellowを行い、帰国した。その後民間病院勤務を経て2009年4月京都大学に帰学したが、京都大学病院において植込型補助人工心臓の導入ならびに心臓移植実施施設申請の準備の一環として2010年8月から2011年3月までの8か月間ピッツバーグ大学 (Cardiopulmonary Transplantation and Cardiac Assist device Fellowship, University of Pittsburgh Medical Center) に留学することとなった。当時の心臓・肺移植チーフは神戸大学出身の豊田吉哉先生で、旧知であったこと、また2番手のDr. Christian Bermudez(豊田先生がTemple大学に移動された後に心臓・肺移植チーフに昇格)とはMayo Clinicのfellow時代の同期生であったことなど、多分にpersonal connectionに由来する面もあった。事前の手続きにより、ペンシルバニア州の医師免許を取得した後、O-1 VISAのサポートでClinical instructorというポジション(内容的にはclinical fellowと同じ)を得ることになった。

3.ピッツバーグ大学

ピッツバーグ大学メディカルセンター(University of Pittsburgh Medical Center: UPMC)は大学キャンパス内の2つの基幹病院と小児病院、郊外の複数のサテライト病院などからなる複合医療施設であり、成人の心臓・肺移植、補助人工心臓は基幹病院の一つ、Presbyterian Hospital (通称Presby)で行われている。歴史的に見てもUPMCは移植・人工心臓の領域で世界的にも先駆的な仕事をしてきた。UPMC初の心臓移植は1968年に行われ、一旦プログラムが閉鎖されたが1980年に再開、1986年には90例以上行われたこともあった。その後は概ね年間40~60例程度で推移し、2010年末までの累積心臓移植症例数は1300例に及ぶ。一方、人工心臓に対する取り組みもさかんで、特筆すべきは1986年Jarvik-7 Total Artificial Heartといわれる完全置換型人工心臓の植え込みに成功したことである(その後心臓移植に到達)。1990年にはFDAの承認のもと、体外式左室補助人工心臓(LVAD)を装着したまま、患者を自宅退院に導いたことも知られている。現在世界で最も多く使用されている軸流ポンプである植込型LAVD: HeartMate IIもプロトタイプはUPMCで開発され、世界初のヒトへの植え込みは2000年7月VAD プログラムのチーフ、Dr. Robert Kormosがイスラエルにて成功させている。肺移植に関しては詳細を省くが、心臓移植と同じチームで行っており、症例数は全米最多施設の一つであり(2009年、片肺・両肺あわせて年間120例以上、2010年末までの累積肺移植症例数1300例以上)、豊田先生が移動された後は大阪大学出身の重村周文先生が肺移植部門のリーダーとして活躍中である。同時期には名古屋大学出身の藤本和朗先生(その後名古屋大学に帰学)、神戸大学出身の太田壮美先生(Dr. Takeyoshi Ota: その後University of Chicagoでスタッフサージャンに)らがそれぞれの目的でVAD・移植のフェローをしており、世界第一線の移植医療が多くの外国人の手によって維持されている事実をあらためて実感した。もちろんこの頃の人脈もまた、私のかけがえのない財産になっている。

4.心臓・肺移植プログラム

植込型補助人工心臓が心臓移植までのブリッジとして使用可能となって以来、多くの心臓移植待機患者はLVAD補助下で待機している。ドナー出現の一報が入ってから実際に移植されるまで多くの工程と長い時間を要し、移植コーディネーターが果たす役割は非常に大きい。UPMCでは移植前と移植後では担当するコーディネーターが異なっており、役割分担が明確である。フェローはスタッフの指示のもと、臓器摘出・移動の手配をサポートしてくれるCOREという非営利組織(臓器移植ネットワーク)の担当者とともに通常二人で小型ジェット機を利用してドナー病院に駆けつける。他臓器の摘出チームと合流し、開始時間や手術の流れを確認、またPresbyのスタッフと密に連絡を取りながら摘出手術に臨む。ここでは手洗いナースを含めて全く初対面の他施設移植チームと同じ患者さんの手術に入ることとなり、時としてそれぞれの主張や利益を追求するあまりトラブルに陥ることがある。特に移植医療は外国人が担っていることが多いのは全米共通であり、まさに多民族集団の中でのコミュニケーション能力、協調性、現場の判断力が試される瞬間である。また、心臓と肺の摘出では左房や肺動脈の切開線をどこに置くか、また、肝臓摘出チームとは下大静脈の切断線に関して、事前に入念な打ち合わせが必要であり、うっかりしていると必要な部分が相手に持っていかれてしまうこともあり、後のトラブルとなり得る。どのような状況でも冷静・沈着に自分に課せられた任務を的確にこなすこと、出来るだけ良い状態で臓器を摘出し、安全に持ち帰ることなど、移植fellowにかかる責任は重い。摘出された臓器は所定の方法でクーラーボックスに梱包し、Presbyへの帰途に就く。ここもCOREのスタッフと二人である。Presbyに着くと、レシピエントの手術室に摘出臓器を搬入、その後はレシピエント手術に手洗いし、移植操作に入る。ドナー出現の一報から手術完了まで通常24時間以上の工程となる。UPMCでは心臓・肺移植が同時に3例まで施行可能で、ドナーに一人のfollow、レシピエントにスタッフサージャン一人とfellow一人の合計3人で手術が完結する仕組みが出来ている。もちろん移植手術が通常手術やICU満床との理由で中止されることはなく、病院全体の移植医療へのサポートは絶大であった。私はたまたま単身赴任であったこともあり、他の外国人fellowが嫌がるケースでも休祝日・夜間を問わず積極的にドナー臓器摘出に参加、北はボストン、南はフロリダ・テキサス、西はカンサスに至るまで8か月で40件以上臓器摘出に赴いた。飛行機好きの私は自家用ジェットやヘリコプターに乗る楽しみも加味され、忙しい中にも移植医療にかかわっているという充実感、移植後劇的に回復する患者さんをみることに大きな喜びを感じていた。この経験が京都大学病院での心臓移植実施につながる日を楽しみしている。

5.補助人工心臓プログラム

UPMCでは植込型LVADとしてHeartMate IIがBridge to transplant (BTT)・Destination therapy (DT)として使用可能であり、また当時は治験中のHeartWare HVADもBTTとDTの両方で経験することができた。また、症例によっては体外式LVAD(Thoratec PVAD)もRVADやBiVADとして積極的に使用されていたため、この経験は帰国してからのNipro-Toyobo VAD使用時に大変役立った。VADプログラムは移植プログラム同様、複数のコーディネーターが植込み前後の所定の検査、follow-up外来の手配や、ドライブラインの管理までを行っている。また、UPMCの特徴として医工学連携の取り組みが盛んで、医師でないエンジニアが入院・外来を通じてVAD回転数・流量の設定や機器管理のサポートを24時間体制で行っている。加えて、Physician assistantやNurse practitionerによるサマリーや処方、入退院、転院の手配など医師をサポートする体制が非常に充実している。

6.若手胸部外科医へのメッセージ

私が初めて米国臨床留学を果たした2000年ごろに比べると、ここ数年は臨床留学からそのまま有名施設でスタッフサージャンとしてのポジションを獲得し、活躍している日本人胸部外科医が増えている。これは取りも直さず、日本人の勤勉さ、器用さ、コミュニケーション能力、リーダーシップなどが高く評価されている左証でもある。もともと移植医療はどちらかといえば米国人がやりたがらない分野であり、外国人が入り込みやすいということはあるにせよ、ここを足がかりに「米国で一旗揚げる」チャンスも十二分にあるように思う。また、移植症例数自体は全体として大きく変動はないものの、VADはDTが可能となり、デバイスの進化も含めて今後ますます発展していく分野だと思う。通常の心臓外科手術プラスアルファとしてVAD/移植の知識と技術を習得しておくことは、若手胸部外科医の将来展開を広げる意味で重要であると思う。「我こそは」と思う諸氏は是非ともチャレンジしていただきたい。


UPMC Presbyterian Hospitalで移植手術を執刀する著者



ピッツバーグ大学キャンパス:移植臓器を届けるヘリコプターから撮影

ページトップへ戻る

Contact

京都大学 心臓血管外科(京都大学医学部附属病院心臓血管外科病棟)
〒606-8507 京都市左京区聖護院川原町54
Tel : 075-751-3788(病棟)075-751-3784(医局) Fax : 075-751-4960
Mail : cvs@kuhp.kyoto-u.ac.jp
Copyright © Department of Cardiovascular Surgery
Graduate School of Medicine, Kyoto University All Rights Reserved.